「Shakespeare bookstoreとは」

前に書いたことがあるかもしれない。
でも、何度でも書きたい。

そのころまだ20代で、ひとり旅を始めた頃だった。
カルチェラタン界隈の同じような角を幾度も曲がって、
これは道に迷ったのだな
と、ぼんやり感じていた。
もっとも、
旅に出たからには、
わざわざそういうことをしに行っているのだから、
そんなに焦ることはない。

で、
ふと、ある本屋の前に出た。
それがシェイクスピア書店だ。
だけど、なぜパリでシェイクスピアなんだ?
おもしろそうなので入ってみたら、
店内には英語で書かれた本ばかり並んでいた。
次の日、もう一度行ってみようとして、
今度はわざと道に迷ったのに、
その本屋にたどり着くことはできなかった。
それでもわたしにはよかった。
なんとなく、ロマンを感じることができたから。

ずっと後になってから、
そこはヘミングウェイがパリ滞在中によく足を運んだ本屋だったことがわかった。
そして、さらにもっともっと後になって、
ある日、ニューヨーク大学の近所をぶらぶらしていたら、
シェイクスピア書店に再び出くわした。
あ、また…

残念なことに、今はインターネットがあるので、
たいていの物事の背景は、簡単に調べがつく。
だから、
パリだろうがニューヨークだろうが、
その気にさえなれば、わたしはシェイクスピア書店に行ける。
だけど、それはぜんぜんロマンチックじゃない。
わたしにとってのShakespeare Bookstoreとは、
偶然たどり着いたけど、再びはたどりつけない場所のことを言う。
そういう場所に会えると、
この旅はよかったなあと、思う。